宇宙を目指して一歩一歩

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将来の宇宙輸送機について考える(パーソナルモビリティとしての宇宙輸送機システムについて)

将来の宇宙輸送機について考える

私は宇宙に行きたい。そのための乗り物を作りたい。宇宙のまだ誰も見たことがない景色をこの目で見るまでは死ねないと思っている。

なのでその手段についてよく考える。

最初に思いつくのはロケットだ。国際宇宙ステーションISS)に宇宙飛行士を送る有人輸送ロケットを見ると、主にファルコン9ロケット(クルードラゴン:アメリカ(SpaceX社))やソユーズロケット(ソユーズ宇宙船:ロシア)等が運用されていることが分かる1,2。こうしたロケットを自前で作れるような技術力か、あるいはそれを買えるだけの資金力が必要になるだろう。以前、前澤友作さんが宇宙旅行を実現した際は、かかった費用が一人あたり約50億円だとか言われていたりした。自前で開発するとしたら更に膨大な費用がかかるだろう。いずれにしても個人の力ではなかなか難しそうだ。同じ目標を目指す人達とチームを組む必要があると感じる。

ロケットでの宇宙行きプランを検討するにあたってはSpaceX社が検討中のStarship3について見て見るのが良さそうだと考えている。イーロン・マスク氏の火星移住構想を実現するため開発されているこのロケットは人類史上最大の規模を誇る超大型のロケットで、就航した場合の1回当たりの打上げにかかるコストは約200M$(約2~3億円)になると言われている4。利益率や乗客数をどう設定するかにもよるが、Starshipの積載量を考えると将来的には数千万円からもしかすると数十万円程度の費用で宇宙旅行が実現する時代がやって来るかもしれない。徹底的なコストカットや再使用を推し進めた成果で、現代ロケット技術の粋を集めた結果だと思える。最も可能性のある宇宙行きチケットの候補の一つだろう。

これだけ安くなるのであれば、サラリーマンをやりながらでも貯金をコツコツ貯めていればもしかすると死ぬ前に月面や火星旅行ぐらいは実現できるかもしれない。実際宇宙行きを目指すのであれば一つの現実解だと感じる。

具体的にStarshipが実現した将来について思いを馳せてみる。今よりも遥かに安いコストで、人類は月や火星への一歩を踏み出していることだろう。

一方でこのシステムは非常に巨大で複雑だ。大きな拠点間を結ぶ定期便は就航するが、個人が本当の意味で行きたいところに行けるようになるにはまた別の移動手段を確保する必要があるのではないかと思った。

自動車と電車、セスナと旅客機等の関係性と似ていて、個人で所有するモビリティと国や企業が所有するインフラとではその性質が異なってくる。インフラであるロケットに対応した個人で所有できるモビリティについては未だ世界に発明されていないと考える。私はそう遠くない将来にこうしたパーソナルモビリティとしての宇宙輸送機が必要になってくるのではないかと考えている。

少し逸れてしまったが話を戻して、次に思いつく手段はスペースプレーン(単段式宇宙往還機)だろう。 ガンダムを見て育ったこともあり、旅客機のように宇宙を行き来するシャトルが飛び交う様子はいずれ実現するかもしれない未来として憧れ、想いを馳せるものであった。 しかし私が知る限りでスペースプレーンで実用化した例は未だなかったと記憶している。スペースプレーンの専門家ではないので余り過ぎたことは言えないが、感触としては軌道化に必要なエネルギーを獲得することが相当に難しいからではないかと考えている。ツィオルコフスキーの公式(ロケット方程式などと呼ばれたりもする)からは、膨大な理想増速量(ΔV)を獲得するためにロケットを多段化する必要が生じてくることが分かっている。単段式宇宙往還機(SSTO)を実現するために必要な技術要求(構造の軽さや推進系の性能等)は物理学的に非常に高いレベルを要求されていて、それを満足させる技術を研究していく必要がある。

他にも色々なアイデアがあるとは思うのだが、人を載せることを前提としたシステムとしては大きくこの二つが主要なアイデアではないかと思う。そしてここまでの考えをまとめると以下のようになる。


「誰でも自由に宇宙に行くことが出来る未来を作る」ためには

  • 圧倒的な低価格と高い安全性・信頼性を兼ね備えたシステム
  • インフラとしてのロケットおよびパーソナルモビリティとしての宇宙輸送機システム
  • 物理的・理論的に整合が取れたシステム

以上が必要と考えられる。


ロケットは既に様々な国・企業等が精力的に研究・開発を行っているのでここでは割愛する。 後者の「パーソナルモビリティとしての宇宙輸送機」は、どのようなシステムがあれば実現するだろうか?

パーソナルモビリティとしての宇宙輸送機システム

一つ思い付いたアイデアがあるのでご紹介したいと思う。

航空業界、特に空飛ぶ車と呼ばれていたりするeVTOLやドローンの世界であったり、個人発明家やベンチャー企業が挑戦している「ジェットパック」等を見ていた際に思い付いた発想だ。

まず最初に私がニュース等を見ていて「面白そうだ!」と感じたところ・技術を以下にいくつか紹介する。

いずれも個人所有可能な新たな輸送手段の未来を示しているものであると感じた。

特に印象深かったのは上に紹介したGravity Industries社が開発しているジェットパックである。 宇宙服を着てこれをロケットエンジンに置き換えれば、宇宙に行けるのではないだろうか と考えた。 しかし先に述べた物理学的な制約から宇宙に向かうならば多段式のシステムを組む必要がある。

どうすればよいだろうか…?

これまでの多段式ロケットがいわば「縦」に多段化しているのであれば、「横」に多段化してはどうかと考えた。丁度東京オリンピックの開会式でセレモニーを行っていたドローンアートに目が付く。燃料を搭載した無人機を複数機随伴飛行させて、燃料が切れたら随時随伴機からの燃料補給を受ける。そんなシステムはどうだろうかと思った。

システム設計の観点で重要になってくるのはおおよそ以下の要素だと思われる。

  • メイン機のペイロード/イナート質量、タンク容量(燃料搭載量)、エンジン性能等をそれぞれどうするか
  • 随伴機のペイロード質量(補給用の燃料等)/イナート質量、タンク容量(随伴機自身が飛行するために必要な燃料搭載量)、エンジン性能等をそれぞれどうするか

具体的に仮定を置いて計算をしてみる。ここでは以下の仕様を仮定した。


■ メイン機仕様

  • メイン機のペイロード質量: 100 kg (人間1名が搭乗する、アッパー側に仮定。)
  • 燃料搭載量: 200 kg
  • メイン機のイナート質量: 200 kg
    • エンジン: 35 kg (ELECTRON(Rocket Lab社)のRutherFordエンジン5の仕様から仮置き)
    • タンク: 20 kg(燃料搭載量 100 kg に対して質量比が約0.9となるタンクを設定)
    • 生命維持装置(宇宙服): 120 kg 6
    • その他(アビオニクス系、バッテリー等): 25 kg
  • エンジン性能: Isp 340 sec, Thrust 24 kN (それぞれRutherFordエンジンのスペック7を参考に仮定)

⇒ 初期質量: 100 + 200 + 200 = 500 kg

■ 随伴機仕様

  • 随伴機のペイロード質量: 220 kg (メイン機のペイロード質量 + 生命維持装置質量に相当)
    • タンク: 20 kg
    • 推進薬量: 200 kg
  • 燃料搭載量(随伴機の飛行分): 200 kg
  • 随伴機のイナート質量: 80 kg
    • エンジン: 35 kg
    • タンク(随伴機の飛行分): 20 kg
    • その他: 25 kg
  • エンジン性能: Isp 340 sec, Thrust 24 kN (同上)

⇒ 初期質量: 220 + 200 + 80 = 500 kg


以上の仕様をもとに、まず燃料がフル充填されたメイン機の1回の燃焼あたりに得られる理想増速量(ΔV)をロケット方程式に当てはめて求めてみる。

 \displaystyle
\begin{align}

\Delta V &= I_{sp} g \ln \frac{m_0}{m_T} \\
&= 340 ・9.8・ \ln \frac{500}{500-200} \\
&\fallingdotseq1702 \quad [m/s]

\end{align}

以上より一回燃料をフル充填する度、燃焼終了時に 1,702 m/s の増速量を得られることが分かった。

厳密には種々の損失を考える必要があるが、ここでざっくりと軌道化に必要なΔVを10,000 m/s と置いてみる。 メイン機を何回燃焼させればこのΔVを稼ぐことが出来そうか、以下の式より計算する。

 \displaystyle
n = 10000 \div 1702 \fallingdotseq 6 [回]

以上より、燃焼を6段階行うことで 10,000 m/s のΔVを稼げそうなことが分かった。

それでは合計何機の機体が必要となるか考えてみる。ここでは随伴機は打上げ場所から一緒についてくると仮定する。

1段目の燃焼は、地上でメイン機に充填した燃料を使えば良いため、燃料補給用の随伴機は必要ない。

2段目の燃焼のためには、メイン機への燃料補給を行うため1機の随伴機が必要となる。

3段目の燃焼のためには、先ほどの2段目と同等に増速させた随伴機を1機用意すればよいことになるから、2段目で使用した機数(メイン機+2段目加速分の随伴機1機)の計2機を随伴機として追加で用意すればよい。

念のため4段目についても同様に、先ほどの3段目と同等に増速させた随伴機を1機用意すればよいことになるから、3段目で使用した機数(メイン機+2段目加速分の随伴機1機+3段目加速分の随伴機2機)の計4機を随伴機として追加で用意すればよい。

以降も同様で、一般化するとn段目の燃焼には 2n-2 [機] (ただし、n≧2) の随伴機が必要であることが分かる。

従って、n段目の燃焼までに必要な随伴機の合計機数は以下より求められる。

 \displaystyle
\begin{align}
N &=  \sum_{k=2}^{n} 2^{k-2} \\
&= \frac{2^{n-1} - 1}{2-1} \\
&= 2^{n-1} - 1 [機] (n \geqq 2)
\end{align}

以上より、6段階増速するために必要な随伴機の機数は上式にn=6を代入して31機となる。 これにメイン機を足した32機が最低限必要な総機数となる。

ここまで技術面で見てきたが、事業性についてはどうだろうか?

有人機ではなく無人機として運用する場合は、メイン機のペイロード質量+生命維持装置分の220 kgをペイロード質量として扱うことが出来る。 同じくらいの打上げ能力を持つRocketLab社のElectronロケットを参考に、打上げ単価を約$20,000/kg8として以下の計算をしてみる。

 \displaystyle
\begin{align}

C &=  \frac{20000 \times 220}{32} \\
&= 137500 [\$ / 機]

\end{align}

ドルから円の換算レートを140円/$とすると、一機あたり大体二千万円程度で機体を製作することが出来れば市場に乗り込める可能性も見えてきそうである。 宇宙服が一着何億円の世界らしいので全体で見るとかなり厳しそうではあるが、上記は全ての機体を使い捨てにすることを前提にした計算なのでもう少し工夫すれば実現解が見えてくるかもしれない。

他にも本格的にこのようなシステムを実現しようと思った場合は色々と問題が起きそうなことは認識はしていて、例えば以下あたりは自信を持って大丈夫と言えない部分があると考えている。

  • 質量の超過リスク
  • 各種損失(重力損失、空力損失)の超過リスク
  • 安全性への問題(搭乗者に対する問題(加速度やロケットエンジンの熱等)、地上への安全等)
  • 具体的な飛行中の燃料の補給方式について
  • 随伴機との衝突リスク

一方で、ΔVが足りなかったとしても随伴機数を調節することで多少の調整は可能である柔軟さがあったり、 随伴機のエンジン出力を強化しつつ、世界各地に発射場を用意できれば、途中でメイン機に合流しての燃料補給が可能となり更に効率化の可能性がある等、システム全体としてまだ余裕度を持った構想であると考えている。

そして「横」の多段化にはこれまでの宇宙輸送機にないもうひとつの新しい特徴が生まれる。それは万が一メインの機体のコンポーネントに故障などが発生したとしても、随伴機に同じコンポーネントを積んでいれば空中で交換できる可能性が生まれることだ。故障部品の補充用として余剰の随伴機を飛行させることが信頼性の確保に繫がる。上の例で言うならば、倍の64機を飛行させることで飛行中の任意の故障1回までの対故障性能を持たせることが出来るだろう。 人命が掛かる輸送機にとってこの特徴は非常に重要な意味を持つようになるはずである。

更に、随伴機の機数が増えることはむしろメリットに結び付くことにもなる。同型機を大量生産することによってコストの低減であったり、データ・実績の蓄積等による信頼性の向上等が期待できるからだ。縦の多段化と異なり一機あたりに必要な推力は小さくて済むので比較的小規模なエンジンがあればそれで良い。扱うエネルギーが少なくなることはそれだけ安全性の向上やシステム設計上の余裕にも繫がる。また低高度を飛行する1段目や2段目の機体は大気圏で燃え尽きずそのまま再利用することも可能だろう。

最初はジェットパックのような必要最小限のシステムから、行く行くは空飛ぶ車・スペースプレーンのような大型のシステムでこの「空中補給」のアイデアを実現し、新しい形の宇宙輸送機を実現できたら面白いのではないかと考えている。

おわりに

ここまでの長文お読みくださり誠にありがとうございました。 実現性の程はいかほど、といったところで、私自身計算や考察が追いついていないところがあり大分粗の目立つアイデアかとは思いますが、少しでもワクワクして頂けたなら幸いです。

発想のスタートは上記でも紹介したGravity Ind.のジェットパックを見たときに「これは面白そうだ!」と感激したところから始まりました。自分でも乗ってみたい・作りたいとなって色々と考えているときに、「これをロケットエンジンに組み替えたらそのまま宇宙にいくことはできないだろうか」と思いました。検討している中で、記事でもご紹介したドローンの編隊飛行であったり、戦闘機の空中補給であったりといったイメージが思い浮かび、今回のアイデアに至った次第です。また、大量生産による信頼性確保が出来るという点も個人的には良いところな気がしています。

検討を詰めていく中で最も良く分からなかったのはエンジン回りだったでしょうか(他にも分からないところばかりでしたが…)。 数千万~数百万程度のロケットエンジンが作れないとシステムデザイン的に中々厳しくなってくるのですがその辺りの勘所がほとんどなかったので、しばらくは液体推進系の勉強を進めないとなぁと思った次第です。

あとは燃料補給の仕組みもですね。航空機のように空中でホースを差し込む形もありですが、燃料の入ったタンクごとごそっと付け替えることが出来れば色々と楽そうな感じもします。しかし重量物で高圧ガスたる液体燃料を空中で付け替えるのはかなり至難の業という感もあり、またそれに対応した高度な制御系・ソフトウェアも必要になると思うところです。

もう少し具体的に実現性を考えていきたいと思い、直近では出来る範囲の技術実証をドローンを使って出来ないかと考えています。 そちらの検討等もまた機会があれば公開していきたいと思いますので、もしご興味がありましたらしばしお待ち頂ければ幸いです。

それでは!


  1. ISSへの打上げ機 - 有人宇宙技術部門, JAXA (https://humans-in-space.jaxa.jp/iss/launch/)
  2. ISS関連フライトの全履歴 - 宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター, JAXA (https://iss.jaxa.jp/iss/flight/)
  3. STARSHIP - SpaceX (https://www.spacex.com/vehicles/starship/)
  4. E・マスク氏、火星での都市建設に向け「Starship」ロケットの経済性をアピール - CNET Japan (https://japan.cnet.com/article/35145201/)
  5. Rocket Lab Increases Electron Payload Capacity, Enabling Interplanetary Missions and Reusability - Rocket Lab (https://www.rocketlabusa.com/updates/rocket-lab-increases-electron-payload-capacity-enabling-interplanetary-missions-and-reusability/)
  6. 宇宙服ヒストリー - 有人宇宙技術部門, JAXA (https://humans-in-space.jaxa.jp/life/wear-in-space/history/)
  7. Electron Payload User Guide 7.0 - Rocket Lab (https://www.rocketlabusa.com/assets/Uploads/Electron-Payload-User-Guide-7.0.pdf)
  8. Smallsat Rideshare Program - SpaceX (https://www.spacex.com/rideshare/)